
日本の貿易赤字と聞くと、多くの人はまず原油や天然ガスなどのエネルギー輸入を思い浮かべます。これは、資源に乏しい日本にとって、ある意味「避けようのない赤字」です。ところが近年は、これとは性質のまったく違うデジタル貿易赤字が膨らんでいます。
- 海外のクラウドサービス
- 海外製の業務システムや SaaS
- 海外プラットフォームへのオンライン広告費
こうした目に見えにくいデジタルの利用料が、毎月静かに海外へ流れ続けているのが現状です。
その一方で、私たちは何となく次のような選択をしてしまいがちです。
- とりあえず海外のクラウドで始めておく!
- 無料で簡単なら海外のホームページサービスで良いと思ってしまう!
- 実はその無料ホームページ作成サービスが海外企業だと知らないまま使っている!
深く考えないまま海外サービスを選び、その結果として自分たちのお金で自国の経済を痩せさせている。その構図を、一度落ち着いて見直してみようというのがこの記事のテーマです。
- なぜ国産サーバーを使うことが「デジタル貿易赤字を減らす一歩」になるのか?
- 普通のサイトに、本当に大掛かりな海外向けサービス基盤が必要なのか?
- なぜ日本人は、海外の有名サービスを信仰してしまうのか?
- そして、それが最終的に円安をじわじわ後押ししている現実とは?
これらを、発注側と制作側の両方の目線から整理してみます。
エネルギーの赤字は「宿命」に近いが、デジタル赤字は「減らせる赤字」
エネルギー資源や食料の多くを輸入に頼る日本にとって、原油や天然ガスの輸入で赤字になるのは、ある意味地理的な宿命です。
しかし、クラウドや SaaS などのデジタルサービスの支払いで生まれる赤字は性質が違います。
- どのクラウドを選ぶか?
- どのサービスを選ぶか?
- サーバー代をどこの国や企業に支払うのか?
これらは、私たち一社一社、一人ひとりの選択に委ねられている部分が大きいからです。
国産サーバーを選ぶか、海外のサービス基盤を選ぶか?
それは「毎月払っている利用料を、日本の中で回すのか、海外に流すのか」という選択でもある。
エネルギーの赤字とは違い、デジタル赤字は努力と選択で確実に減らせる種類の赤字だと言えます。
国産サーバーを選ぶことは、小さくても確実な「国内還元」につながる!
ホームページや業務システムを運用するためには、必ずサーバー代がかかります。
そのサーバーを、たとえば次のどちらに置くかによって、お金の行き先は大きく変わります。
- 国産レンタルサーバーや国産のクラウド基盤
- 海外のクラウド事業者や海外レンタルサーバー
- 国産サーバー: 売上は日本企業に計上され、日本国内の雇用や投資に再循環する!
- 海外サーバー: 売上は海外企業の収益となり、日本から見ればサービス輸入の一部になる!
一つの会社が払うサーバー代は小さな額かもしれません。しかし、日本中の企業・個人事業主が、なんとなく海外クラウドをやめて意識的に国産サーバーを選ぶという選択を積み重ねれば、日本全体のデジタル赤字を確実に削る方向に働いていきます。
普通のサイトに、本当に巨大なサービス基盤は必要なのか?
まず、自分たちが本当に何をしたいのか、用途を整理してみます。
- 中小企業のコーポレートサイト
- 店舗や事務所の紹介サイト
- お知らせやブログ、採用情報
- 月数千から数万ページビュー程度のアクセス
こういった「ごく普通の会社やお店のサイト」で必要なのは、次のような基本要件です。
- ページを表示するための仕組みが安定して動くこと
- SSL やバックアップなどの基本機能が備わっていること
- 日本の利用者からのアクセスに対して、ストレスなく表示できること
このレベルの用途に対して、世界中の巨大サービスを支えるようなフル装備のサービス基盤を持ち出すのは、どう考えてもオーバースペックになりがちです。
サーバーのサービス基盤を自社で細かく組み立ててサイトを動かそうとすると、
- 仮想サーバーの選定や構成
- ストレージの設計
- ネットワークやセキュリティ設定
- バックアップ設計と復旧手順の準備
- 監視や運用体制の整備
といった要素を一つひとつ設計していく必要があります。これは海外産か国産かに関係なく、そのような構成を自前で組む場合の話です。
問題は、この仕組みが非常に分かりにくいことです。
IT に詳しくない経営者や担当者からすると、これらは専門用語の羅列にしか見えません。
そのため、「よく分からないけれど、プロがそう言うならお任せします。」という心理になりやすく、本来そこまで複雑な構成を必要としていないのに、過剰なスペックやオプションをセットにした高額なプランに誘導されてしまうことがあります。
あえて言えば、この複雑さそのものが、情報に弱い側からお金を巻き上げる仕組みとして働いてしまう場合さえあるのです。
一方で、多くの国産レンタルサーバーでは、こうした要素があらかじめパッケージ化されています。
中小企業や店舗の普通のサイトであれば、専門のインフラ担当がいなくても、シンプルな料金体系の中で必要な機能をまとめて利用できるよう設計されていることが多いのです。
さらに、フルカスタマイズ型のサービス基盤を使う場合、請求も複雑になりがちです。
- 基本料金
- 利用量に応じた従量課金
- 他サービスとの連携に伴う追加課金
などが合算され、月ごとに金額が変動しやすい構造になります。
ごく普通の会社案内サイトやブログ程度であれば、
国産レンタルサーバーと普通のホームページ構成で十分。
その方がシンプルで安定していて、総コストも読みやすい。
というケースの方が、実際には多いのではないでしょうか。
本記事では、クライアント向けにサーバー代の具体的な金額や原価の内訳はあえて公開していません。大切なのは、金額の細かい比較よりも、「どの国のサービスに、どの程度依存するのか」という方向性です。
海外サーバーはなぜ、日本で営業活動がうまいのか?
ここまで読むと、こんな疑問が出てくるかもしれません。
それでも、なぜ多くの日本企業が海外のサービスに飛びついてしまうのか。海外サーバーや海外サービスは、なぜ日本でここまで営業がうまくいくのか。
特別な陰謀があるというより、海外サービス側の見せ方・売り方のパターンと、日本側の構造的な弱さがかみ合っていると考えた方が分かりやすいです。
売り方のパターン 1:世界標準と大企業ロゴによる「お墨付き」!
海外クラウドや海外 SaaS の多くは、
- 世界の大企業や公的機関のロゴを並べる!
- 世界標準・グローバル採用を強調する!
といったメッセージを前面に出します。
日本の企業文化には、
- 前例主義
- 大企業や官公庁が採用しているものは安心という考え方
が根強く、この「お墨付き」がそのまま信仰につながりやすくなっています。
売り方のパターン 2:コミュニティや資格・イベントで「空気」をつくる。
海外クラウドを扱うベンダーやユーザーコミュニティは、
- 大規模イベント
- オンライン/オフラインの勉強会
- ベンダー資格制度
などを通じて、次のような空気をつくります。
- エンジニアには、「そのクラウドが使える自分」という優越感
- 営業には、「そのクラウドを売れること」が自分の武器になる感覚
- 企業には、「そのクラウド人材を採用すれば安心」という印象
こうして「このサービスを使っていることが当たり前」という雰囲気が出来上がり、営業活動がとてもやりやすい土壌が整っていきます。
売り方のパターン 3:無料・簡単・おしゃれ・世界で人気という分かりやすい訴求!
海外発の無料ホームページサービスも、宣伝の切り口は非常に分かりやすいものです。
- 無料で簡単に始められる
- 誰でも使える操作画面
- おしゃれなテンプレートが豊富
- 世界中で何千万人が利用しているという実績
コードを書きたくない、制作会社に頼むと高そうだ、と感じている層にとって、こうしたメッセージはとても魅力的に映ります。
一方で、次のような点はほとんど語られません。
- 実際のサーバーがどの国にあり、どこにお金が落ちるのか
- 無料の先に、毎月の有料課金プランが待っていること
- その支払いが、デジタル貿易赤字の一部になっていくこと
売り方のパターン 4:日本側の探究心の低さと海外ブランドを意識させない!
日本人は、IT 全般だけでなく、次のような構造を学ぶ機会が少ないままです。
- クラウドやサーバーの仕組み
- デジタル貿易赤字の構造
- サービスの裏側で、お金がどのように移動しているか
そのため、
- 世界標準と言われたから
- 無料で簡単と言われたから
といった理由だけで、海外サービスに飛びついてしまうことが多くなります。その結果、「自分たちのお金で自国の経済を弱らせてしまう」という矛盾を抱えることになります。
無料ホームページサービスが抱える「見えないコスト」
海外製の無料ホームページサービスは、確かに便利で、とにかく早く形にしたいときには役立ちます。ただし、その多くは次のような構造を持っています。
- 海外企業が運営するクラウドサービスの一種である!
- 無料プランから有料プランへ誘導する入門版モデルである!
ビジネスで使う場合、実際には次のような機能が欲しくなります。
- 広告非表示
- 独自ドメインの設定
- ネット予約やオンライン決済などの業務機能
これらを求めると、ほぼ確実に毎月の有料課金が発生します。
その月額料金は、そのまま海外企業の売上となり、
日本から見ればデジタルサービスの輸入として積み上がっていく。
さらに、ドメインの取得からサイト運用まですべてを海外のサービス基盤にまとめている場合、アドレスの文字列がたとえ日本語や .jp 風であっても、利用料のほぼすべては海外企業の売上として計上されます。
無料で始めやすいというメリットの裏側で、日本からお金が外へ流れ続ける仕組みになっていることは、一度頭の片隅に置いておいて損はありません。
不必要なデジタル輸入を垂れ流すことは、自国を弱らせる行為になりうる
ここまでできるだけ冷静に整理してきましたが、正直なところ、かなり強い言葉でこう言いたくなる瞬間があります。
代替できる国産サービスがあるのに、何も考えずに海外クラウドや海外 SaaS を選び続ける行為は、経済的な意味で、自国を弱らせる方向に加担しているのではないか?
もちろん、どのサービスを使うかは各企業の自由であり、法律に反しているわけではありません。
それでも、
- 日本人の給料
- 日本の中小企業の利益
- 日本国内で支払った税金
から生まれたお金を、検討もせず海外の巨大 IT 企業に流し続けることが、
自国の経済を痩せさせながら、円安を促進し続ける
という側面を持っていることだけは、直視する必要があると感じています。
発注側と制作側が、今日から見直せるチェックポイント
感情的な議論で終わらせても意味がないので、最後に「では今日から何を見直せばよいか」という視点で、簡単なチェックリストにまとめます。
発注側(クライアント)のチェックポイント
- 提案されたサーバーやサービスが、どこの国の企業のものか必ず確認する
- 世界標準・安心・みんな使っているといった言葉だけで判断しない
- 国産サーバーと普通のホームページ構成で足りないのか、一度質問してみる
- 海外サービスを選ぶ場合は、なぜ国産ではだめなのか、その機能は本当に必要なのかをセットで確認する
制作側(制作者・コンサル)のチェックポイント
- 最初から海外クラウド前提の提案になっていないか見直す
- クライアントの規模や用途、運用体制を踏まえ、国産サーバーで完結する案をまず検討する
- 海外製の無料ホームページサービスや海外 SaaS を提案する場合は、月額課金が海外企業の売上になることと、デジタル赤字や円安への影響もできる範囲で説明する
- 自社のポリシーとして「代替可能な限り、国産サービスを優先する」という方針を明文化する
終わりに 国産サーバーを選ぶことは、小さな国益を守る日常行動
- 石油やガスの赤字は、私たち個人にはどうしようもない部分が多い
- しかし、クラウドや SaaS、サーバー代の行き先は、私たちの選択で変えられる
- たとえ一件のサイト、一台のサーバーであっても、国産を選べば、その分だけ確実にお金は国内に残る
うちは、国産サーバーと国産サービスをできるだけ選んでいます。
という姿勢は、それ自体が一つのメッセージであり、小さくても現実的な国益の守り方だと思います。
これからサーバーや CMS を選ぶとき、ぜひ一度だけでも、
このお金は、どこの国の、誰を太らせるために支払うのか。
という視点を思い出してみてください。その小さな一歩が、日本のデジタル貿易赤字と円安体質を、少しずつ変えていくはずです。